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睡眠負債 最終稿


睡眠負債 起
二月夜八時頃
家族の団らんの声が一階から聞こえて
「優、お誕生日おめでとう」
「さーケーキ食べましょう」
目が覚めた勝は足音をならして一階に
降りていった。

一階では弟の優の誕生日を祝っている。
机の上にはケーキとごちそうがならんでいる。

「うるさい!俺は勉強中なんだぞ!ちょっとは考えろよ」
母親はあわてて
「ごめんね、マサルよんだんだけど返事がなかったから
そうだ、あなた宛に小包届いてたわよ」
その小包を持って上の階に上ろうとするマサル
優が口を開いた
「また、参考書かよ…、いったい何冊買ってんの?」
「馬鹿はだまっとけよ医学部の入試に必要なんだよ」
「二度も失敗してるくせに、兄貴、高々有名高校出てるだけで
自分がこの家で一番偉いと思ってんじゃないの?」
マサルは持っていた小包を床に投げつける。
「バイトで卒業ぎりぎりの馬鹿のくせに」
母と父が間に入る。「やめなさい2人とも」
「悔しかったら受かってみろよ医学部!」
「俺が受かったら、お前は家を出て行けよ」
「ああ、出てってやるよ。受からなかったら兄貴が出てけよ」

マサルは階段を上っ自分の部屋に
あとあと一ヶ月、模試の結果はD判定…
マサルは参考書を開いて机に向かうが
気がつくと眠っている。

目が覚めると
朝9時。
だめだ、このままじゃ…
何か、何か方法はないか…
目がさめて集中できる薬かなにか…

睡眠負債 起2
予備校の廊下
生徒1
「ねぇ、アレどこで売ってる。欲しいんだよもうすぐ入試だし」
生徒2
「二丁目の路地裏、電信柱の前で…」

マサルは二丁目の路地裏に入る。
そこは薄汚れた町で、ちょうど電信柱の前で
フードをかぶった男がいる。
売人
「初めてだな坊主、なんでこれが欲しいんだ」
マサル
「受験が近いからそれが欲しいんだ」
「で、いくら持ってきたんだい?」
マサルは握りしめた五千円を見せた

ドサ。
気がつくとマサルはゴミ捨て場に投げ出されていた。
「け、受験のために薬だとよ、
ませたガキだぜ…ははは。
おつむで考えろよ、自分が無能だってのをさ…」
無能…無価値…

そこに、老人が一人やってくる
「おい兄ちゃん、あんたの欲しいもんここにあるぞ」

老人につれられて行った先は橋の下にある
ビニールテントの小屋。
小屋の中にはたくさんの時計がかけてあり
時間はバラバラである。

「あったあった。これがあんたの睡眠通帳だ…」
「睡眠通帳?」
「人間は人生の三分の1を寝て過ごしている。
その三分の1を起きている時間と交換できたら
便利だと思わないかい?」
「できるのか?そんな夢みたいなことが」
「ああ、でももちろん起きた分の時間は
寝て返さなきゃ行けない8時間起きたとしたら別の日に
8時間寝る、もちろん分割して寝てもいい。」
「ふーん、返しきれなくなったらどうなるんだ
破産だよ、睡眠破産。」
「死ぬって事か?」
「それに近いものだ…まぁそこまでいくのはまれだがな」
「さ、どうするんだい。試してみるならその契約書にサインしてくれ」
「……。一ヶ月、一ヶ月だけ借りたい。返済は今年の夏に一括で。」
老人はにやりと笑って
「それじゃあ、一ヶ月借り入れということで!」
ポンと老人は時計のマークのついたスタンプを通帳についた。

ドン

睡眠負債 承2
マサルは机に向かって猛勉強している。
時計はあっという間に進んでいく
カレンダーの日付はどんどん進んでいく。
「毎日感じていたあの眠気が嘘みたいだ
自分が誰よりも一歩先に進んでいるという
高揚感、寝ているのは死んでいるのと同じ
なんて愉快なんだ、はははは」

3月夜
食卓にはケーキそして
饒舌に語ってビールを飲むマサルの姿。
しかし、家族は少し暗い顔をしている。
「ねえ、お父さん、俺が医学部入ったら車買ってくれるって
約束だったよね…。」
「あ、ああそうだね」
「やったーっ」
母親が必死形相で優を止めている
「あなた、優を止めて」
優はバッグを担いで出て行こうとしている。
「今すぐ俺を馬鹿にしたこと謝ったら
ここにおいてやってもいいぜ。」
「悪かった、でも、これが最後だ
お前はもう俺の兄貴じゃねぇ」

バンと扉を閉めて優は出て行った。
「優!優!」と母親

睡眠負債 承3
優の部屋は物置部屋になっている
大学のキャンパス
先生が点呼を取っている
「34番、高木 勝。いないのか?はぁ、春から出席は3回かぁ」

同じ頃、車を運転している勝
車の中には女子大の女の子と
男子数名が乗っている。
勝の身なりは少し華やかになっている。
車を運転している途中、コンビニの前で父親の姿を見つける。
「あれ、親父。」
後ろの席にいる学生の会話
「え、単位大丈夫なの?医学部って学費高いんでしょ?」
「いいんだよ、親が俺のために出してくれてんだから。
医者になりゃ、いくらでも返せるさ!なマサル!」

「マサルくん、二日ぶっ続けて運転大丈夫?」
「平気平気、俺は寝ない男なんだよ。」
(親父、なんでコンビニで働いてんだろ…)

車は海岸についた。
そこにキャンプを張る。
女子大生の一人が鞄から何かを取り出した。
「アレあるよ。」
取り出したのはなにかの錠剤である。
「マサルくんも飲む?」
女の子の舌の上に錠剤がある。
マサルは女の子の唇にかぶりついた。

まどろみの中で女の子の笑い声と
女の子の体の一部分が頭でぐるぐると巡る。

睡眠負債 承4
車を運転しているマサル
車中ではみんな寝ている。

車は人気のない山道に入っていく
車には音楽がかかっている。
運転している途中で眠気が襲い始める。

うとうとしている時に
何かが車の前に飛び出した。
どすん!

「どうしたの?なにかぶつかった?」

マサルは自動車の外にいる
いや、なんでもない鹿だと思う。
ちょっと休憩する。

すると老人から電話がかかってくる。
「よお、元気かい?やっと出たか」
「おい、俺の睡眠時間はどうなってる?急にさっき眠気が
きたぞ!」
「おー取り立てがきたか」
「何?半年おきっぱなしでもうなくなったのか?」
「あー大事なこと忘れてたわ、あんたの寿命はとっくに
つきてる…すでに今年の4月にな…」
「つまり…、俺は4月に死ぬはずだったってか?」
「じゃあ、こんど眠ったらもう目覚めないって事か…?」
「そうじゃな、しかも利息もたっぷりついてるから
睡眠時間も返済できないから睡眠破産状態になるなぁ…」
パンパンと平手でマサルは顔をたたいた
「利息?」
「ああ、ざーっと計算して40年だ…あんた契約書ちゃんと
よんでなかったのかい?書いてあるよ、下の方にちいさくねぇ…」
「あんたの家族は?あんたの家族で払える人はいないのかい?」
「ある、あるよ」
「じゃあ、家族の誕生日を教えてくれ…」
老人は笑っている。

睡眠負債 承5
居酒屋のシャッターが閉まる。
夜中
優は母親に電話する。
「もしもし、母さん。優だけど。いま仕事終わった。
あ、届いた?よかった兄貴喜ぶかわからないけど…
父さんは仕事見つかった?うん、また仕送り送るね
大丈夫だよ、ちょっと寝不足なだけ…うん、うん
じゃあね。」

電話を切った瞬間に優は
電信柱にもたれ掛かった。
「おかしいな…ちゃんと寝てるのに…何でこんなに眠いんだ…」

信号機が点滅している。

横断歩道をわたろうとした時
一台の車が彼に向かって走ってくる。

翌日
マサルの家
涙に暮れている両親。
和室には敷き布団がしかれ
顔には布がかかっている。

優はマサルの入学祝いに
時計を送ってきてくれていた。

机の上にあった時計を見て、
マサルも頭を抱えた。

父親が口を開いた
「マサル…じつはな…おまえの学費の大半は
優が稼いだアルバイト代だ…予備校のお金も借金して
まかなっていたんだ…」
「3年前に、お父さんリストラされてな
やっと仕事が見つかったのが最近なんだ」
「どうして言ってくれなかったんだよ!」
「優が、おまえの負担にならないようにと…」
「嘘だ…」
「自分は頭が良くない、でも兄貴は能力がある
自分はそれを手助けしたいってな」

ピンポーン
インターフォンをのぞくと
警察が来ている。
「すいませんが、お宅に高木マサルさんはおいでですか?
一ヶ月前にあったひき逃げのことでお話が…」
母親
「何したのあなた?」
「な、なにも…俺は」
すると母親の力が抜けすっと
床に倒れ去った。父親が駆け寄る
母さん…!だいじょ…
父親も崩れ落ちる。

インターホンの音
「もしもーし、どうされました」

「取り立てか…取り立てがきた…」

マサルは家の裏口から塀を乗り越えて道を走っていく。
塀から飛び降りたところで、警察が気がついてやってきた。
「警部裏から逃げました」

マサルは死にものぐるいで走って逃げる。
そしてやってくる眠気、
路地を飛び出した先で車にはねられる。

睡眠負債 転1
目が覚めるとそこは3月の受験後の自分の部屋だった。
下の階から家族の声が聞こえる。
「優…」
マサルは急いで下のリビングへ降りる。
「生きてたのか優」
マサルは優の肩を抱いて喜ぶ。
そして走っていって老人がいた高架橋の下
にいくとそこには何もなかった。
あーはっは、なんだ夢か。
はは、夢だったんだははは。
マサルは家に帰ると優から言われる
「で約束どうすんの?」
「約束?」「医学部受からなかったらでていくんだろ?」
「嘘だ、おれは医学部に合格して」
ほら、これといってはがきが一枚。
はがきには不合格という文字。

「嘘だ…こんなの夢だ、夢を見てるんだ早く起きなきゃ」
「夢じゃないよ現実だよ、兄貴」
母親は「まあいいじゃない、ケーキせっかくだから食べましょう」
テーブルの上に置いてあったケーキの傍らに
ある包丁を手に取ったマサルはそれを自分に突き刺した。
母親と弟は叫ぶ
「マサル!」「兄貴!」

睡眠負債 転2
目が覚めると牢屋の中にいた。
「ここは?」
鏡を覗くとあの老人の顔が
この顔は…
すると牢屋のアナウンスが聞こえる
「おはよう、高木勝あなたはひき逃げの罪で
警官に追われた後、車にひかれ四十年間ここで
眠り続けていた。」
「夢だ、これは夢だ…」
「夢ではないこれは現実だ」

勝は来ていた服をベットの
手すりにひっかけて首をつる
「まずい!やめろ!やめなさい!」

睡眠負債 転3
はっと目が覚めると。
そこは優の部屋であった。
隣の部屋から笑い声が聞こえる。
勝が自分の部屋をのぞくと
そこには自分の姿が見える。

もう一人の自分は机の上に足を乗せて
携帯電話をいじっている。

「そうだよ、おまえが医学部なんざ受かるわけ
ないよなぁ、なあ勝…」
といって不気味な笑顔で振り向くもう一人の
自分。

「ああ、この世界は夢だ、全部俺の作り出した夢だ。
なんでこうなったか知ってるだろおまえ。」
「し、しらない」
「しらばっくれるな!おまえは、4月のあの日
この部屋で首をくくったのはてめーだろうが!」
不気味な笑みをたたえた勝は
もう一人の勝の首に手をかけてきた。
「死ねよおまえ、俺はおまえが一番嫌いなんだよ。
弱いくせに見栄ばっかりでかくてよ!」
「夢だ、これは夢だ」
「いい加減、自分が負けたってうけいれろこの屑!」
勝は相手をはねのけて外へ出た。

道の先に優の後ろ姿が見える
「優…!優!悪かった俺が悪かったよだから元に戻してくれ」
優は笑顔で振り返る
そこへ車がつっこむ。
車に乗っていたのは勝自身である。
「ははははは。ばあーかばーかばーかははっはは。」
車の下から大量の血がでてくる。

睡眠負債 結
雪が降る夜3月

「かんぱーい」

優と父と母が机に座っている

「優、医学部合格おめでとう」
「お前は私たちの自慢の息子だよ」
「ありがとう。お父さん、お母さん。いつか
恩返しできるようにがんばるよ。」

どさっ(上の階でなにか落ちた音)

優が二階に上り扉を開ける
そこは元々兄の勝の部屋であるが
今は物置部屋になっている。

そこには箱が一つ。
それは優が勝に送った腕時計である。
「こんな時計あったかな?」
下の階から母親の呼ぶ声がする。
「あーうん、なんか時計の箱、これもらってもいい?」
ばたんと扉を閉じる音。

家族三人が仲良く話している
優は時計をはめてうれしそう。

勝の回想
この家族で一番不要だったのは
まぎれもない、俺だった。
認めたくない自分、認めたくない現実
そこから逃げ出した俺に残された世界
さめない夢の中でこの結末に
ようやくたどりついた

動いていた時計は
秒針をとめた。

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