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千分の一夜物語 1


522149_2152038600_147large夜の向こうに何があるのか。

漆黒の宇宙を進む列車、
はっきりした名前を誰も知らないが
宇宙に住む住民はこれをいつしか
銀河鉄道と呼んだ。
地球から乗り込んだのは今まで
数人しかいない。この列車は地球には真夜中に
到着するのだが町の光が明るすぎて
ほとんどの人は来たのに気がつかないのだ。

ヨハンとトマーゾは幸運にもその光を
自分たちが住む海が見える町から目にしたのだ。じっとしていられようか、時間は午後2時を
すぎている、急いで荷造りをして家族に
別れも告げぬまま2人は家を飛び出した。

浜辺に到着した汽車は光を放ち
列車の中には形は人と違えどどこか見たことの
あるような顔の宇宙の民が楽しそうに語らいながら列車に乗り込んでいく。
トマーゾとヨハンはキョロキョロして
この列車に乗る方法を探した。

ちょうど列車の頭のところに
乗客たちをじっと見ているおじいさんがいた。
この人は車掌さんかもしれない!
ヨハンは駆け寄った、それを追うよう
トマーゾが続く。

車掌は彼らに尋ねた。
「この列車に乗るのに切符は要らない、
ただ乗るためには理由が必要だ。
この列車に絶対に乗らなければいけない
理由。」
ヨハンは迷わず答えた
「北極星に行きたい。
知りたいんだ。夜の向こうに何があるのか」
トマーゾはおどおどしているだけだった。
車掌はヨハンの瞳を覗き込んだ
ヨハンの瞳はただまっすぐどこかを向いている。その奥に光があった。
車掌はヨハンに切符を渡した。
「いい旅を」
トマーゾは何か言いたかったが
何をいいのかわからない。
焦る、今にも泣き出しそうだった。
トマーゾは今まで死にたいと思うことは
なんどもあったが生きたいと思った
ことは一度もなかった。もうかれこれ
2年ほど家に引きこもっていてただ漠然と
流れる時間に理由などという目的は存在する
価値もない。でも、それなのに汽車に乗りたかった。ここで乗らなければトマーゾは
また理由のない日常に帰らないといけない。
それは嫌だった。
車掌が時計を確認し、ヨハンは不思議そうな顔でトマーゾを見ている。

ボー!という煙突の音、
「行かなきゃ!」といってヨハンは
乗車口へ駆け出す。
トマーゾは涙をこらえ、拳を握りしめ
つま先に力を入れて振り絞るような声で
叫んだ。

「一緒に!一緒に行ってもいいですか?」

ヨハンは振り返る。
びっくりしたような顔で彼を見た後
「いいよ。」と笑みを浮かべ
その右手を差し出した。

トマーゾは震える手で
その手を掴んだ。

車掌はその様子を見て
切符を渡した。
「いい旅を」

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